2009年12月13日

夜の海の夢

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2009年02月20日

静かに泣いている

 どうしてと訊けば、きっと困らせてしまうのだろう。台所の椅子に座り日の当たる庭を眺めていると、気付けば女の子がすぐそばまでやってきていて、静かに泣いていた。それはまるで、風に乗ってふわりと部屋に入り込んできた葉のひとひらのようだった。静かだった。いったい何を見ているのだろう。私が眺める庭のほうを、彼女も向いている。
 葉ずれの音が聞こえる。かすかな風を肌に感じる。女の子はテーブルの向こう側にいて、そのまま動こうとしない。ただ泣いている。ときおり右手の袖でぬぐうのは顎であり、目でも頬でもなかった。私は彼女の涙をそっと見た。どこから来た女の子なのだろう。遠くから聞こえる子らの声は、彼女のともだちだろうか。
 私は再び庭に目をやった。夫の帰りにあわせ夕飯の下準備をし、そして窓を開け庭を見ていたのだ。可憐な花かんざしや、木々の間の緑の光を。そういうものを、葉ずれの音を聞きながら、私はぼんやりと見ていたのだった。
 女の子の存在を思った。どうしてなのかはわからないが、女の子は、私とこの場所を選んだのだ。女の子は泣いていた。手を伸ばせば届くであろうすぐそばで、女の子は私と同じく庭のほうを見て、ただ涙を流しているのだった。
 台所の椅子で、うとうととしていた。夕飯の支度の時刻になっていて、女の子はいなくなっていた。
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2009年02月19日

種の話

 手に種を持っていた。それが必ず芽を出すということを彼女は知っていた。彼女は場所を探していた。
 そこは丘の上だった。右には海が見えていた。左には山や公園や家々が見えていた。大きな木と木のあいだ、一日のうちに、太陽の光を存分に受け、あるいは木の陰にゆったりと休める。彼女はその場所を種の場所に決めた。
 折れて地の上にあった木の枝をひろいあげて、それで土をごりごりとかいた。湿り気を十分に見るまでごりごりとかいて、種をそこに置いた。土をかぶせた。
 じょうろは持っていなかった。途中の水飲み場まで引き返して、両手で水をくんで戻った。二度、同じように水をやった。種を植えた場所には目印はいらなかった。彼女だけがその場所を知っており、彼女だけがその種を大事に思っていた。
 見知らぬ誰かが別の何かを期待してそこを掘り返すことのないように、慎重に元のように戻した。ごりごりとかいた土は手のひらでならし、ぱんぱんとたたいた。これでいいと思った。ここがあの種の場所だと思った。海からの風と、街からの風の吹く、良い場所だと思った。
 帰りがけ、見知らぬ老いた男から声をかけられた。すぐに暗くなるのでお帰り。彼女はこたえる。はい、これから帰ります。男がさらに言った。そうしなさい。しあわせになんなさいね。はい、と返事をする前に、老人はもう背を向け歩き出していた。彼女も家へと向かった。
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2005年07月08日

#04 願い事

 ひらひら、とんでいました。わたしは一匹のちょうちょでした。
 さわさわ、どこかから音がするので、わたしは風にときおり押されながら、その音がする方へと、とんでいました。

 ちいさな町で、さわさわ、揺れていたのは笹の葉でした。色とりどりの紙の飾りが、一緒に風に揺れていました。
 ひらひら、わたしはとびました。幾枚もの短冊が、瞬いている星のように、風にゆらめくのを見ていました。

 その時、一枚の短冊が、わたしのために、用意されているのを知りました。
 短冊をどうぞ、と。風の精なのでしょうか。ちょうちょのわたしに、ちいさな一枚の短冊を、渡してくれるのです。

 どうしていいのかわからなくなって、ひらひら、わたしは浮かんだままで、笹の葉のほうを見ました。
 すると、笹の葉は、さわさわさわ、と揺れました。
 わたしは、心のなかに、願い事をかきます。
 わたしがそう言うと、笹の葉は再び、さわさわさわ、と揺れました。  
 風がふいて、今度はわたしも、ひらひらひら、と。とんで、そう応えました。
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2005年05月18日

#03 月の夜の夢

 月夜の道に、わたしはいました。
 なにか悲しみを胸に抱いて、歩いていました。
 何処へと向かっていたのか。よくはわからないのですが、しかし確かに何処かへと、まっすぐ歩いていくようでした。
 風が吹いて、葉擦れの音がざわざわとしました。
 わたしは見上げました。そこには上弦をかすかに過ぎた月ばかり、明るく光っていました。
 そこでわたしは、つぶやいたのです。
 (何もかもをご存じだというのに、どうして、そこでそうして、黙しているのですか)
 風がやみ、先ほどまでは揺れていた木が、夜の闇へと戻って行きました。
 (どうして? どうしてなのですか)
 鳥が飛び立つ音がしました。
 わたしは再び歩き始めました。月はどこまでもついてくると、知っていましたので、返事を焦ることはなかったのです。
 月の光のしたで、わたしは、道に迷うことはありませんでした。

 次の夜。わたしはやはり、月の道にいました。胸にある悲しみに、思わず涙がこぼれそうでした。
 このまま何処かへと歩いてゆけば、わたしはしあわせを手に出来るでしょうか。よくはわからないまま、しかし別の道を行こうとは、思わないようでした。
 風が、頬をすっと撫でました。
 立ち止まり、月を見上げ、わたしは昨夜のつぶやきを、なぞるのでした。
 (何もかもをご存じなのに、どうして……?)
 しばらく月を見上げていましたら、その時、声が聞こえてきました。それは月からの返事ではなく、一羽の鳥の声だと、わたしは何故だかすぐにわかりました。
 月の光のした、小さな白い花が一輪。そしてその横に、小さな一羽の鳥がいて、わたしを見上げていました。
 (何かもを、知っているから)
 一羽の鳥が、言いました。
 (心が痛んで、しょうがないのです。心が痛んで、もはや何も、言葉が出てはこないのですよ)
 月の光で、鳥の羽は、きらきらと輝きました。
 (月も昔は、よく泣いていました。ぼくはいつも、月の涙を、傍らで見ていました)
 それだけ言うと、鳥は飛び立ち、夜の闇へと消えました。
 やんでいた風が再び吹いて、白い花はふるえました。葉擦れの音が、海鳴りのように聞こえました。
 わたしはまた歩きはじめました。
 振り返ると、闇空には月がいて、わたしの歩く道を、ずっと照らしているのでした。
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2005年04月06日

#02 散歩

 あなたが時折、ぽつりと何かを言って、わたしは、ああとか、うんとか、相づちを打つ。
 なんとなく一緒にいて、同じ景色を歩いている。変わっていく空の色を、ゆっくり歩いて、一緒に見ている。

 紺青の空に、雲間から名残の光。だれかの帰りを待つ明かりが、家々に灯る時刻。
 春の夜の風が、散歩の二人を、包んでいる。
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2005年04月03日

#01 がらがらの音

 ふと目を離した間に、何を見たのか何を想ったのか、まだ言葉も持たぬおさなごが、かなしげな表情を見せており。
 若い父親は、ほ乳瓶を出してみたり、お襁褓を確かめてみたり、だが何故だかわからない。
 先程まで、きゃっきゃっと声をあげていたおさなご。父親の手の届かぬところにある、かなしみの湖、そのさざなみに、小さなその手を、ふと浸してしまったのであろうか。父親が目を離した、瞬きの間に。
 ほ乳瓶をしまった鞄から、若い父親は次には、おもちゃを取り出す。
 抱き上げたおさなごに、がらがらをふって語りかける。
 (どうしたの? 大丈夫だよ。どうしたの。)
 がらがらが、やわらかな音をたてる。おさなごは、しかし今にも泣き出しそうで。
 若い父親は、ひとり、途方に暮れている。親の手の届かない、遠いところへ、我が子が行ってしまいそうで。その不吉なひらめきに、かすかにおののいている。
 若い父親は、おさなごをのぞき込んで、がらがらの鳴る音を聴く。まるで、仰ぐかのように。すがるかのように。
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