2005年08月28日

さよなら

 窓をあけ、風が入ってきているというのに、風鈴の音がきこえなかった。
 見れば、糸が切れ、短冊が落ちてしまっているのだ。

 短冊をひろい、つるした鉄の風鈴を、手に取った。


 うだるような暑さはなくなり、気付けば朝夕が、随分と過ごしやすくなっている。
 夜の闇に聞こえるのは、虫の音だが、これもいつか、秋の夜のそれへとすっかり変わっていくのだろう。
 空には月が変わらずに、黙して光っているけれども、風には今までにはない涼しさが混じる。
 遠い場所にいる彼(か)の人は、いったい今、何を見て、何を思っているだろう。


 つま先立ちで、棚の上にある裁縫箱を手にとった。若葉色と白緑と、二種の刺繍糸を選び取った。
 細かく編んでいき、丈夫な糸を作る。その糸で、また繋いだ。

 南部鉄の風鈴は、窓辺でふたたび風に短冊を揺らし、音をたてるようになった。

 ちりん、と風鈴が鳴いて、そして、夏が終わろうとしている。
 さよならは、突然ではないほうがいい。さよならは、いつものように澄んだ音色で。そして、季節が変わるように、ゆっくりと。
posted by bkntmrg at 22:29| Comment(0) | TrackBack(1) | つぶやき | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください

この記事へのトラックバック

さよなら
Excerpt:  窓をあけ、風が入ってきているというのに、風鈴の音がきこえなかった。  見れば、糸が切れ、短冊が落ちてしまっているのだ。  短冊をひろい、つるした鉄の風鈴を、手に取った。  うだるような暑さはなくなり..
Weblog: 夏っちゃんぶろぐ
Tracked: 2005-08-28 22:35
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。