2005年05月18日

#03 月の夜の夢

 月夜の道に、わたしはいました。
 なにか悲しみを胸に抱いて、歩いていました。
 何処へと向かっていたのか。よくはわからないのですが、しかし確かに何処かへと、まっすぐ歩いていくようでした。
 風が吹いて、葉擦れの音がざわざわとしました。
 わたしは見上げました。そこには上弦をかすかに過ぎた月ばかり、明るく光っていました。
 そこでわたしは、つぶやいたのです。
 (何もかもをご存じだというのに、どうして、そこでそうして、黙しているのですか)
 風がやみ、先ほどまでは揺れていた木が、夜の闇へと戻って行きました。
 (どうして? どうしてなのですか)
 鳥が飛び立つ音がしました。
 わたしは再び歩き始めました。月はどこまでもついてくると、知っていましたので、返事を焦ることはなかったのです。
 月の光のしたで、わたしは、道に迷うことはありませんでした。

 次の夜。わたしはやはり、月の道にいました。胸にある悲しみに、思わず涙がこぼれそうでした。
 このまま何処かへと歩いてゆけば、わたしはしあわせを手に出来るでしょうか。よくはわからないまま、しかし別の道を行こうとは、思わないようでした。
 風が、頬をすっと撫でました。
 立ち止まり、月を見上げ、わたしは昨夜のつぶやきを、なぞるのでした。
 (何もかもをご存じなのに、どうして……?)
 しばらく月を見上げていましたら、その時、声が聞こえてきました。それは月からの返事ではなく、一羽の鳥の声だと、わたしは何故だかすぐにわかりました。
 月の光のした、小さな白い花が一輪。そしてその横に、小さな一羽の鳥がいて、わたしを見上げていました。
 (何かもを、知っているから)
 一羽の鳥が、言いました。
 (心が痛んで、しょうがないのです。心が痛んで、もはや何も、言葉が出てはこないのですよ)
 月の光で、鳥の羽は、きらきらと輝きました。
 (月も昔は、よく泣いていました。ぼくはいつも、月の涙を、傍らで見ていました)
 それだけ言うと、鳥は飛び立ち、夜の闇へと消えました。
 やんでいた風が再び吹いて、白い花はふるえました。葉擦れの音が、海鳴りのように聞こえました。
 わたしはまた歩きはじめました。
 振り返ると、闇空には月がいて、わたしの歩く道を、ずっと照らしているのでした。
posted by bkntmrg at 20:36| Comment(0) | TrackBack(0) | scene | 更新情報をチェックする
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