2005年04月03日

#01 がらがらの音

 ふと目を離した間に、何を見たのか何を想ったのか、まだ言葉も持たぬおさなごが、かなしげな表情を見せており。
 若い父親は、ほ乳瓶を出してみたり、お襁褓を確かめてみたり、だが何故だかわからない。
 先程まで、きゃっきゃっと声をあげていたおさなご。父親の手の届かぬところにある、かなしみの湖、そのさざなみに、小さなその手を、ふと浸してしまったのであろうか。父親が目を離した、瞬きの間に。
 ほ乳瓶をしまった鞄から、若い父親は次には、おもちゃを取り出す。
 抱き上げたおさなごに、がらがらをふって語りかける。
 (どうしたの? 大丈夫だよ。どうしたの。)
 がらがらが、やわらかな音をたてる。おさなごは、しかし今にも泣き出しそうで。
 若い父親は、ひとり、途方に暮れている。親の手の届かない、遠いところへ、我が子が行ってしまいそうで。その不吉なひらめきに、かすかにおののいている。
 若い父親は、おさなごをのぞき込んで、がらがらの鳴る音を聴く。まるで、仰ぐかのように。すがるかのように。
posted by bkntmrg at 19:55| Comment(0) | TrackBack(0) | scene | 更新情報をチェックする
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